A.エクゼクティブサマリ-(概要)

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A.エクゼクティブサマリ-(概要)

原子力産業はチェルノブイリ級の事故には毎年でも耐えられる”

1986年IAEA(国際原子力機関)事務局長の
     職にあったハンス・ブリックス氏の言葉



私たちがチェルノブイリ事故の健康への影響について語る時、多くの論文を参考にすべきである。この報告書に選ばれた論文は、正しい方法論を用い包括的な分析がなされており、信頼性のあるものである。ただし、統計的方法論を如何に駆使しても完璧な統計というものはない。したがって、これらの論文から健康被害の多様性と広がりについて謙虚に学び、何が正しいのか、そして何をすべきなのか、最終的には読者自らが考えることが大切である。


チェルノブイリ事故で放射線被ばくを受けた人々


  1. 汚染除去作業員
    830,000人(ヤブロコフ, 2010)
  2. 30km地域あるいは高濃度汚染地域からの避難者
  3. 350,400人(ヤブロコフ, 2010)
  4. ロシア、ベラル-シ、ウクライナで重度汚染地域の人々
  5. 8,300,000人(ヤブロコフ, 2010)
  6. ヨ-ロッパの軽度汚染地域の人々
  7. 600,000,000人(フェアリ-,2007)


チェルノブイリ事故の放射線被ばくで予想される病気/健康被害

  1. まず、がんが挙げられる。とはいっても、多くのがんは25~30年の潜伏期間があることを銘記しておかなければならない。現在のところ、甲状腺がん、乳がん、頭蓋内腫瘍だけが明らかになっている。しかし、汚染除去作業員では、すでに甲状腺のほかにも、さまざまな臓器-前立腺、胃、血液、など-で、がんを発病している。
  2. 遺伝子の異常として、奇形、死産、不妊症などがある。
  3. がん以外の病気でも、多くの臓器で疾患がみつかっている;中枢神経系疾患、老化の促進、精神疾患などである。


研究(要約) 


  1. 低線量被ばく(0-500 mSv)の影響が体系的にモニタ-され、研究された。実は、遺伝子への影響はチェルノブイリ事故前にはよくわかっていなかった。現在、この研究は細胞レベルから、さらには細胞内の分子構造にまで及んでいる。ICRP(国際放射線防護委員会)は、催奇性のしきい値(訳注:ある値以上で効果が現れ、それ以下では効果が現れないことをいう。閾値ともいう)を100 mSvと主張し続けている。しかし、多くの研究はそれが間違っていることを証明している
  2. 遺伝的不安定性” や“バイスタンダ-効果”-すなわち放射線を直接照射されていない細胞の遺伝子にも異常が現れる現象が発見されている

      (訳注1:遺伝的不安定性とは、放射線被ばくによって生じた損傷を乗り越え、生き残った細胞集団がその後被ばくしなくても長期間にわたって遺伝子障害を起こす状態)
      (訳注2:バイスタンダ-効果とは、細胞を照射してDNA二重鎖の切断などの変異を起こさせると、照射を受けていない隣接する細胞にも変異が起こる。何らかの液性因子が関与していると考えられている)

      (訳注3:これらの現象が本当であれば低線量被ばくによる健康リスクは考えられている以上に高いということになる)
  3. 被ばく線量が少なければ少ないほど、がん発生の潜伏期間が長くなる(ピア-スとプレストン; RERF-放射線影響研究所、2000年)。
  4. 遺伝的不安定性”は遺伝子内で継承され、世代ごとに急速に増大する。汚染除去作業員と被ばくを受けていない母親とのあいだに生まれた子どもに染色体異常が認められるという研究報告が多数あり、3つの共和国のリサ-チセンタ-(モスクワ、ミンスク、キエフ)で閲覧することができる。累積効果の最初の兆候は、被ばくを受けた両親から生まれた子どもたちの甲状腺がんであろう。しかしながら、このことはまだ確証がえられていない。
  5. がん以外の疾患が増えていることもわかった。主に心血管疾患と胃の病気、そして精神神経疾患などは低線量被ばくの身体への影響であることがわかってきた。精神神経疾患は、おもに汚染除去作業員とその子どもたちの研究で解明された。
  6. ロシア当局の発表によれば、汚染除去作業員の90%以上が何らかの病気を抱えている;すなわち、少なく見積もっても740,000人が重篤な疾患をわずらっている。彼らは老化が早く進み、一般人の平均以上にさまざまながんや白血病、精神的身体的疾患などにかかっている。また白内障を病(や)んでいる人もかなり多い。がんについては潜伏期間が長いため、これから著明な増加が予想される。
  7. 独自の研究(訳注:政府やWHOなどのバイアスのかかった研究ではないという意味と思われる)によれば、2005年までに112,000から125,000人の汚染除去作業員が死亡するであろうと推定されている。
  8. 入手できた複数の研究によれば、チェルノブイリ事故の結果として、およそ5,000人の乳幼児が死亡した推定されている。
  9. 遺伝性および催奇性障害(奇形)は、直接被害を受けた3国(ロシア、ベラル-シ、ウクライナ)だけでなく多くのヨ-ロッパ諸国で、明らかに増加した。ドイツのバイエルン州ではチェルノブイリ事故以来先天性異常が1,000人から3,000人も増加した。私たちは、ヨ-ロッパでの10,000人以上にのぼる重篤な奇形は放射線によってもたらされたのではないかと危惧している。人工中絶は未報告例が多いと思われるが、あのIAEA(国際原子力機関)でさえ、チェルノブイリ事故によって西ヨ-ロッパで100,000人~200,000人の人工中絶があったという結論に達した。
  10. UNSCEAR(放射線の影響に関する国連科学委員会)のデータをもとに計算すると、チェルノブイリ地域で12,000人から83,000人の子どもが奇形を持って生まれ、全世界では30,000人から207,500人の子どもが遺伝子の障害を受けると予想されている。第一世代ではみられる障害者数は、予想されるすべての障害者数のわずか10%にすぎないことも銘記しておかなければならない。
  11. チェルノブイリ事故の余波はヨ-ロッパで死産や奇形が増えただけでなく、男女比の割合にまで影響を及ぼした;1986年以降明らかに女児の出産が減少したのである。クリスチ-ナ・フォイクトとハ-ゲン・シェルブの論文によれば、1986年以降、チェルノブイリの影響でヨ-ロッパでの子どもの出産数は、予想より80万人も少なかった。シェルブは、この論文ではすべての国をカバ-することができなかったが、これも入れるとチェルノブイリ事故後、失われた子どもの総数はおよそ100万人に達するであろうと推定した。出産数の減少は、地上核実験後にも観察された。
  12. ベラル-シだけでも、事故以来12,000人以上が甲状腺がんになった(パベル・ベスパルチュク、2007年)。 WHOの予測によると、ベラル-シのホメリ(ゴメリ)地域だけで今後50,000人以上の子どもたちが甲状腺がんになるだろう。 この予測にすべての年齢層分を追加すると、その数はおよそ10万人に達すると計算される。
  13. ベラル-シとウクライナにおける甲状腺がんの実際数をもとに、マルコ(2007)は予測される将来の発生数を計算した。それによれば1986年から2056年のあいだに92,627人が甲状腺がんになるという。この数字には、汚染除去作業員の甲状腺がんは含まれていない。
  14. チェルノブイリ事故後スウェ-デンおよびフィンランド、ノルウェ-では乳児死亡率が、1976年~2006年の予測死亡率と比較すると15.8パ-セント有意に増加していた。アルフレ-ト・ケルブラインの計算では、1987年から1992年の6年間に1,209人の乳児が余分に死亡していた (95%信頼区間:875人から1,556人)。

       (訳注:95%信頼区間とは、真の値がその区間に含まれる確率が 95%ということである)。
  15. ドイツの科学者たちが次のことを発見した。チェルノブイリ事故の9ヶ月後に生まれた子どものあいだで21トリソミ-(訳注:ダウン症)が有意に増加していた。この傾向は、特に西ベルリンと南ドイツで著しかった。
  16. オルロフとシャヴェルスキ-は、ウクライナの3歳未満の子どもで脳腫瘍が188例あったと報告した。その内訳はチェルノブイリ事故前(1981年~1985年)には5年間で9例であった-1年あたり2例以下。ところが事故後(1986年~2002年)の16年間では、脳腫瘍と診断された子どもは179人に達した-1年あたり10人以上。
  17. 南ドイツのより多く汚染された地域では、小児腫瘍の中でも比較的少ないタイプ-神経芽細胞腫-が有意に増えていた。
  18. ウクライナのチェルノブイリ省によって発行された資料によると、各疾患が以下のごとく大幅に増加していた。1987年から 1992年の6年間で、内分泌系(25倍)、中枢神経系(6倍)、循環器系(44倍)、消化器系(60倍)、皮膚と皮下組織(50倍以上)、筋肉・骨格系と精神的障害がともに(53倍)であった。1987年から1996年の10年間で、避難者のうち健康な人々の割合は59%から18%へと減少した。汚染地域に住む人々では52%から21%と変化した。特に悲惨なのは、両親が高レベル放射能にさらされた子どもたちで、自らは放射性降下物の被ばくを免れたにもかかわらず、健康な子どもの割合が81%から1996年には30%に減少した。
  19. ここ数年間、小児および青少年のあいだでI型糖尿病(インスリン依存性糖尿病)が急激に増えていると報告されている。
  20. 白血病やがんなどの悪性疾患よりもがん以外の病気がはるかに多い。
                    
チェルノブイリ地域において被災者全体でいかに健康状態に異変が起きたのか、残念ながらその全貌は現在に至るまで結論が出ていない。そして、北半球の人々にとってこの大惨事の全容は何であったのかも述べられていない。この報告書で述べられた数字は一方でひどく高く、他方ではかなり低いと思われるかもしれない。しかし、ここに集められたほぼすべての研究は人口の比較的小さな集団を対象にしていることを考慮する必要がある。得られた数字を大規模な人口集団に当てはめた時に、病気の発症率が推定上わずかな変化であっても、深刻な健康被害と大規模な人的被害となって現れるのである。


結論

                            

 大規模で独立した(訳注:WHOなどの権威から独立した)長期的研究が不足しているため、現在の全体の状況を正確に表すことはできないが、いくつかの概要を示すことができる;高レベル放射線にさらされた人々(たとえば汚染除去作業員)の死亡率は高く、罹患率はほぼ100%である。原子炉事故から25年後、がんやその他の疾患が長い潜伏期間を経て事故直後には想像もつかなかった規模で現れてきた。


 がん以外の病気の数はかつて想像されていたよりもはるかに劇的なものだ。しかし、汚染除去作業員の早期老化のような “新規”の症状について、研究はいまだなにも答えることができない。


 2050年までにさらに数千人以上の患者が、チェルノブイリ原子力事故が原因であると診断されるだろう。原因から身体的症状が現れるまでに長い時間差があるため油断ができない。チェルノブイリは決して終わってはいないのである。


 特に悲劇的なのは何千人もの子どもたちの運命である。あるものは死産、乳児期の死亡、奇形や遺伝性疾患を持って生まれ、あるいは通常の状況下では起きないような病気とともに暮らすことを強いられている。


 チェルノブイリ事故によって引き起こされた遺伝的欠陥は全世界を長期にわたって苦しめ続けるだろう-影響のほとんどは、2代目または3代目の世代まで明らかにならない。


 健康被害の程度はまだ明らかでないとしても、福島の原子力災禍によってもたらされた苦難は同等の規模であり、将来同じような展開になるだろうと予想される

(訳注:フクシマ原発事故がどのように進展するか不透明な段階(2011年4月)での予想である。現時点(2012年3月)で考えれば、この予想よりも被害は少ないと思われる)。

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B. WHOとIAEAによって発表される公式デ-タは信用できないので、ご注意!

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B. WHOとIAEAによって発表される公式デ-タは信用できないので、ご注意!

 2005年9月、IAEA(国際原子力機関)とWHO(世界保健機構)は「国連のチェルノブイリ・フォ-ラム」を編成した。そこでチェルノブイリ事故被害の研究結果が公表されたが、首尾一貫性のないひどい代物であった。たとえば、WHOとIAEAは報道発表で次のように述べている;もっともひどく被ばくした人々の場合、将来、がんと白血病で最大4,000名過剰に死亡する可能性がある。しかし、この発表の根拠としたWHOの報告書には実際の死亡数は8,930名と書かれていた。このつじつまの合わない数字についてどこの新聞報道も取り上げることはなかった。しかも、そのWHO報告書の引用元を調べてみると、なんと(!)がんと白血病による死亡数は10,000から25,000以上増えると書かれているではないか・・。

 これが本当ならば、合理的に考えて、次のような結論に達する;IAEAとWHOによる公式声明は自らのデ-タを操作したいい加減なものである。チェルノブイリ事故の被害について彼らが発表する内容は、現実に起きていることとはほとんど関係のないものである。

 彼らの下部組織のUNSCEAR(放射線の影響に関する国連科学委員会)でさえ、旧ソ連以外のヨ-ロッパでの合計線量(放射線障害のための一般的尺度)がチェルノブイリ地域のそれより高いと推測した。しかし、チェルノブイリ・フォ-ラムは、やはり、このことも考慮に入れていない(訳注:“無視している”という意味)。この大惨事の全放射性物質は次の割合で飛散し降り注いだ;ヨ-ロッパ53%、旧ソ連の汚染地域36%、アジア8%、アフリカ2%、アメリカ0.3%。

 セバスチャン・プフルークバイルが2005年にすでに指摘したが、報道発表とWHO報告、そしてその引用元(カルディス ら)には不一致があった。チェルノブイリ・フォ-ラムとIAEA、WHOは自らの分析に基づき、がんと白血病による死亡数は公式発表の数よりも実は2~5倍も高くなるだろうと予想している(訳注:本章第1節と同じ内容の繰り返し。著者らの強い怒りが感じられる)。しかし、これまでこのことを市民に知らせる必要はないと考えてきた。

 それから5年ほど過ぎ2011年になっても、国連機関のどの部門もこれらの数字を訂正していない。被害を受けた3つの国から多数の研究結果が報告されているにもかかわらず、チェルノブイリの健康被害に関する最新のUNSCEAR出版物では、それらをまったく無視している。子どもたちと青少年に起きた甲状腺がん及び汚染除染作業員に生じた白血病・白内障の人数が6,000症例 - これが、最新情報として報道発表に追加された唯一の数字である。

 2011年、UNSCEAR委員会は以下のように宣言した;「以前のUNSCEAR報告も含むここ20年間の研究をもとに、次のような結論に達した。ほとんどの人にとって、チェルノブイリ事故による深刻な健康被害を怖れる必要はまったくない。唯一の例外として、小児期または若年期に放射性ヨウ素にさらされた人々、そして、高用量の放射線を浴びた汚染除染作業員には、より大きな放射線障害の危険を予想しなければならない」。

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C.核戦争防止国際医師会議と放射線防護協会の提言

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  1. 西側諸国政府とIAEA(国際原子力機関)は、チェルノブイリ地域の事故の結果についてのデ-タを収集中である。彼らは健康に対する放射線の影響を知るために病人を利用している。しかし、想像を超えた大惨事の犠牲者に医学援助をほとんど行なっていない。医師の立場からこれは容認できない。

    ゆえに私たちは、ドイツ連邦政府および他のヨ-ロッパ諸国、国連が効果的に、そして、長期的にチェルノブイリ地域で放射線被害に苦しんでいる人々を助けるよう要求する。

  2. チェルノブイリ大惨事の経過と、その後の長期的健康被害に関する基本的デ-タが公にされていない。それは、東側諸国でも西側諸国でも同じである。このことは、チェルノブイリ事故の影響を公平かつ科学的に分析することをとても難しくしている。IAEAなどの国連の核専門諸機関(訳注:核開発を推進する機関)は -科学的に問題のある手法を用いて - チェルノブイリのデ-タを不適切に利用し、大惨事の影響を少しでも小さく見せようとしている。科学的な見地から、これは受け入れられない。

    したがって私たちは、ドイツ連邦政府および他のヨ-ロッパ諸国、そして国連に対し、科学者や諸団体、関心のある市民がチェルノブイリ大惨事に関するデ-タを自由に入手できるよう要求する。
    さらに、ドイツ連邦政府、他のヨ-ロッパ諸国と国連は、広島原爆の研究にならい、チェルノブイリ事故の健康被害の進展に関して広範囲な疫学的比較調査を継続するよう要求する。その際、チェルノブイリ事故で胎内被ばくをした集団はもちろんのこと、0~9歳の小児期および10~19歳の思春期で被ばくした集団へは特別な注意を払わなければならない。


  3. チェルノブイリ大惨事、ハリスバ-グの米国原子力発電所のメルトダウン(訳注:スリ-マイル島原発事故のこと)、さらに最近の福島での苛酷事故、そして世界各地で起きている事故寸前の多数のトラブルを見てみれば、重大な核事故はいつでもどんな場所でも起きうることを示している。核エネルギ-に依存する多くの国々は人口密度がとても高い。たとえば、日本の人口密度はチェルノブイリ地域の15倍である。福島の実際の健康被害は、事故がどのように進展するかにかかっている。今から数年あるいは数十年たってみないと、これらの健康被害の全貌がはっきり見えてこない。もし、ドイツのビブリス原子力発電所で想定外惨事が起きれば、ライン-マイン地方の高い人口密度から考えて、チェルノブイリ大惨事よりも10倍の健康・経済被害がもたらされるであろう。これは、核エネルギ-の使用が、いかに無責任なものであるかを示している。

    ゆえに、私たちは、ドイツ連邦政府と他のヨ-ロッパ諸国政府が可能な限りもっとも速い手段で、すべての原子力発電所をただちに閉鎖するよう要求する。
    さらに、IAEAの主要な目的は、彼らの定款によれば、核エネルギ-の利用促進にある。しかし、福島で起きたばかりの苛酷事故のことを考えれば、定款にある“目的”を真剣に考え直す時である。
    WHOは、放射線の健康影響に関して1959にIAEAと結んだ協定(下記ご参照)をただちに取り消すべきである。人々の健康こそがWHOの主目的だろう。
    参照:WHOとIAEAは、互いの合意なしで核の健康被害について発表してはいけないという協定(世界保健総会決議WHA12-40号)

ガリレオ・ガリレイ

「真実を知らない人は、単にアホと呼ばれる・・・
真実を知りながらウソだという人は、罪人である。」
ブレヒト著「ガリレオ・ガリレイ」より

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第1章 はじめに

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核分裂と核融合について
      国民を混乱したままにしろ”

アイゼンハワ-米大統領

 チェルノブイリ事故は世界を変えた。一夜にして多くの人々が被害者となった。広大な範囲が住めない土地となった。放射能を帯びた雲が世界中に広がり、多くの人の心に核エネルギ-の使用は危険であるという考えが芽生えた。西欧に住む私たちは、食べ物や子どもたちが遊んだ砂についてとても心配したことが忘れられない。けれども、ウクライナやベラル-シ、ロシアが直面した大きな苦難には関心が薄く、1989年の“チェルノブイリの子どもたち”以降になってようやく理解が広がりはじめた(訳注:“チェルノブイリの子どもたち”はセバスチャン・プフルークバイル博士がベルリンにて創設した市民団体の名称)。事故被害者を助けようと結束し、自発的な運動が始まり、16年以上も継続したことは歴史的にも意義ある。

 チェルノブイリ事故による放射線と多くの疾病・死亡との因果関係を調査した研究は多い。本報告では、それらの研究が科学的に適切なものかどうか評価した。方法論的に正確かどうか、包括的な解析が行われているかどうかに重きを置いた。この統計処理の分野ではいろんな判断をするうえで、多くのかつ固有の不確実性があるということを忘れないようにした(訳注:統計処理の方法とその解釈には十分な注意が必要ということである)。このことを十分考慮して発行文献を選定した。

 ただし、学問の世界では、要査読雑誌(訳注:論文を掲載する際に厳密な審査を要する雑誌のこと。世界の一流誌はすべてこの審査がある。この審査は大切だが欠点もある。審査員のおめがねにかなう必要があるということである)に掲載されていない論文は信頼性がないとして、しばしば除外される。しかし、それはむしろ不当であると信じている-ガリレオ・ガリレイやアルバ-ト・アインシュタインさえも要査読雑誌への投稿を受理してもらう機会はなかったのだから。

 チェルノブイリ原子力発電所を失って、重要かつ大きな経済損失を被った。チェルノブイリからの放射性降下物は見返り(訳注:電力の見返り)に耕作できない広大な土地をもたらした。大小の店や会社が失われ、村や町が捨てられ、あるものはブルド-ザ-で平坦にされた。何百万もの人々が放射線の影響を受け、彼らが所有していたすべてのもの、アパ-ト、家、家庭、そして社会の安全性を失った。多くの人が職を失い、新しい職を見つけることができなかった。チェルノブイリからの放射能に耐えられないという思いと、追放されることが我慢できないという2つの考えのはざまで悩み、そして家族は離ればなれになった。

 チェルノブイリの犠牲者数についての論争は皮肉であり馬鹿げている。よく知られた事実であるが、「死者数31人」は長いあいだ正しいとされ、この数字はしばしば引用されてきた。2005年9月のウィ-ンで見積もられた“50人未満”も真実ではなかろう。それは受け入れられない詭弁であり、チェルノブイリ死として急性の放射線障害やがんや白血病で亡くなった人の数だけ集めたものである。チェルノブイリ事故のあと、劇的ではないが明らかな有病率が増加している。しかし、-典型的な(訳注:皮肉な意味が込められている)-専門家の判断は、被害者の治療をしたこともないのに、原発から距離が離れているという理由だけで、この患者増加はチェルノブイリに起因するものではないというものであった。

 高濃度の放射線被ばくを受け、何年も病気がちで過ごし、妻と別れ、娘が父の過去によってボ-イフレンドを見つけることができなくなり、種々の病気をわずらい、医師からも治療の匙を投げられ、そして自殺を企てた、そのような汚染除去作業員をチェルノブイリ死として数えられるかどうかについて、私たちは論争を拒否する。

 このように、チェルノブイリ事故による死者について信頼できるデ-タを探すことは不可能となっている-とにかく、信頼できないデ-タが多い、そしてあまりに多過ぎるのだ。チェルノブイリの影響を包括的に示す叙述はいまだ無い。本報告の目的は、あなたがすでに知っていることをすべて思い出してもらうこと。そして、巨大な組織が作成した単純化・集約化した考えを、注意深くかつ批判的に吟味し、さらにどこに大きな問題が隠されているのか、空白部分は何なのかについても注意を払ってもらうことにある。   

チェルノブイリの影響を分析したくても、次のような各種隠ぺい工作によって妨害されている。

 事故後の最初の1年間に旧ソ連の保健省とKGBは多くの禁令を発行した。その結果、状況判断に必要な生命情報が収集されず、秘密にされ、そしてねつ造された。そして、重要かつ貴重な情報が失われ、今となっては、いかに込み入った方法を用いて理論的計算を行なってももう取り戻すことはできない。な

 事故についての公式の報告書は、主にチェルノブイリから遠く離れたモスクワの‘red table’(訳注:‘指導者’と訳すべきか。旧ソ連最高会議幹部の会議室に赤いテ-ブルがあったのかも・・)レベルの組織で作成された。これらの報告書は決定事項とされ、偽造されたまま現在に至っている。

 東西両方の放射線医学/放射線防御および原子炉安全/核技術分野の指導的科学者たちは事態の鎮静に躍起であった。彼らは、のちに厳然とした事実がわかっても、以前に下した判断を全く、あるいはほんの部分的にしか修正するつもりはなかった。

 責任当局は、汚染除去作業員や住民の放射線被ばく調査を強制的にさせられた。彼らには適切な設備もなく専門家も時間も足りなかった。このようにして作られた報告書は故意に偽造することでさらに不正確なものとなった。健康への影響は予測されていていたものとは異なった。

 かなりの人々が、汚染が濃厚な地域から軽微な地域へ移住したが、今日ではその詳細は分からない。汚染された地域とそうでないところを比較することは難しくなった。 

 “補償裁判”への提訴内容について多くの報告書がある;汚染された食べ物がクリ-ンな地域にあった、クリ-ンな食べ物が汚染地域に輸送された、あるいは汚染されたものとそうでないものが混ぜられた-汚染された地域とクリ-ンな地域の区別はさらに覆い隠された、そしてもはや再び辿(たど)ることはできない。しかし、きっと住民の健康に少なからず影響を与えたであろう。 

 ロシア、ベラル-シ、ウクライナのどの政府もチェルノブイリの影響について広範囲に調査することには興味がない。彼らは事件を終了させ、失われた地域で再び徐々に耕作を開始し、再定住し、できるだけ被害者に補償しないようにしている。彼らにはそこで犯されたミスについて議論することには興味はない。IAEA(国際原子力委員会)とUNSCEAR(放射能の影響に関する国連科学委員会)の中にもこの立場を支持する人々がいる。この地域で独自に科学的研究を行なおうとしても資金は提供されず、むしろ逆に攻撃され妨害されるだけである。

放射線障害は推計学的に実証することは難しい。大きな疫学調査は費用がかかるうえに、必要なデ-タを照会するには国の協力があって初めてできるのである。

 
特に汚染された3つの国では人口の年齢構成が劇的に変化した;出生率が下がり、死亡率が増加し、男性の寿命がおよそ10年短くなった。この原因は複雑で、がんや疾患の統計を調べただけで簡単にわかるようなものではない。


 旧ソビエト連邦はチェルノブイリ事故とほぼ同時期に崩壊した。その結果、健康に関する医療システム全体が劣化した。医療に携わる人々、病院設備、そして社会・経済構造全体が崩壊した。裕福な人はごくわずかで、絶望的なほどに貧しい人々が増加した。彼らは自分の食料を自分で生産しなければならなかった-その土地が汚染されているか否かにかかわらず。これらすべてが健康状態に悪影響を及ぼした。人々の健康被害は、これらのシステムの変化によるのかチェルノブイリ事故のせいなのかをはっきり区別することは困難である。たとえ不可能でないとしても・・。


 医療設備が劣悪で、しかもうまく機能しないため、多くの医師たちが疲労し挫折した。このような状況下では、医師は働く元気も科学的疑問への興味も失った。西欧の委員会の専門家だけがチェルノブイリ地域を研究の対象とすることができると彼らは感じた。そして、医師たちは患者の治療に専念することしかできなかった。そのため医師たちは西側の科学者に情報を提供することをためらった。


 ヨ-ロッパの国々の責任当局は、チェルノブイリ事故の影響調査をいやいやながら実行したか、あるいは全くしなかった-彼らは、チェルノブイリ事故の放射性降下物は比較的少量だったことから考えて、そこから得るものは何もないだろうと推測した。たとえ何かが得られたとしても、科学の根本をくつがえすだろうか。科学が劇的に変化するとき、仲間内から激しい抵抗に会うことが多いことを歴史は教えているのだから。


チェルノブイリ事故の真実に近づくために研究を行なっても言語の壁が大きな障害となった。ロシア、ウクライナ、ベラル-シの科学者たちは数多くの重要な分析をしたが、それらはロシア語で発刊され、ロシアの学会で討論された。それらは西側ではほぼ完全に無視された。なぜなら西欧ではロシア語は簡単に理解される言語ではなく、しかも、よい翻訳も行われなかったためである。


この報告書では多くの科学的研究を引用した。これらの調査によれば、チェルノブイリの壊れた原子炉から放出された放射性ガスと粒子(アイソト-プ*)が多くの深刻な疾患を引き起こし、そして現在も引き起こしていることが明らかになった。そして、多くの人々が病気になり亡くなった。ここで正しいと評価された論文は科学的標準(訳注:調査方法と統計処理のことと思われる)に従っており、ほとんどが科学雑誌に発表されたものである。


(訳注*:ここでは放射性物質と同じ意味で使われている)



この報告書に書かれていることは、残念ながら不完全で確定的ではない。私たちにできるのはいろんな論文の一端に触れることだけである-そうでなければ文章が長すぎて読めないものになってしまうであろう。

私たちは次のことができるよう希望する;過去の知識を再認識し、人々に新しい知識を伝え、独自の仕事を遂行するよう勧め、事故被害者の援助方法について思案する。




補足
チェルノブイリ事故の基本デ-タ1)

事故日:1986年4月26日

直接影響を受けた数
 ベラル-シ  2,500,000人
 ウクライナ  3,500,000人
 ロシア     3,000,000人
疎開した人: 135,000人 
家を失い移住した人:400,000人 


 >185,000 Bq/㎡(5 Ci/㎞2)地域に住む人口  :3,000,000人 
 > 555,000 Bq/㎡(15 Ci/㎞2) 地域に住む人口 : 270,000人 


汚染した地域:
 ベラル-シ    30% 62,400 ㎞2
 ウクライナ   7% 42,000 ㎞2 および森林の40%
 ロシア1.6%(ヨ-ロッパ部分の) 57,650 ㎞2
185-555,000 Bq/㎡(5-15 Ci/㎞2) で汚染された地域:21,000㎞2  
555,000 Bq/㎡(>15 Ci/㎞2)以上で汚染された地域:10,000㎞2

表1.1995年におけるウクライナ、ベラル-シ、ロシアの放射能汚染地域の人口分布2)

Cs137(kBq/㎡) ベラル-シ ロシア ウクライナ 合計
37 – 185 1,543,000人 1,654,000人 1,189,000人 4,386,000人
185 – 555 239,000人 234,000人 107,000人 580,000人
555 – 1,480 98,000人 95,000人 300人 193,300人
総計 1,880,000人 1,983,000人 1,296,300人 5,159,300人
ヨ-ロッパで37 – 185 kBq/㎡Cs137で汚染された地域

スウェ-デン 1 style=”width: 50%;height:30px;padding: 1px;margin: 0;”2,000 ㎞2
フィンランド 11,500 ㎞2
オ-ストリア 8,600 ㎞2
ノルウェ- 5,200 ㎞2
ブルガリア 4,800 ㎞2
スイス 1,300 ㎞2
ギリシャ 1,200㎞2
スロベニア 300 ㎞2
イタリア 300 ㎞2
モルジブ 60 ㎞2

旧ソ連は長期対策として2つのガイドラインを作成した:

・ 1,480 kBq/㎡以上の汚染地域の居住者は移住
・ 185 kBq/㎡以上の汚染地域は、汚染度を下げるための基準が設けられた-たとえば土壌の除染やその土地で産出された食物を輸入品と交換するなど


汚染除去作業員の数:
800,000 ( 600,000 – 1,000,000) 人
(ドイツ陸軍との比較: 約275,000人)




<グレイとシーベルトの関係>

グレイ(Gy):吸収線量(人体に吸収された放射線エネルギー)

シーベルト(Sv):実効線量(放射線が人体に与える影響の大きさ。放射線の
種類や臓器によって影響度が異なる)

β線やγ線が全身に均等に吸収されたと仮定した場合:1グレイ=1シーベルト
α線が全身に均等に吸収されたと仮定した場合:1グレイ=20シーベルト

(1シーベルト=1,000ミリシーベルト、1ミリシーベルト=1,000マイクロシーベルト)




以下の資料を読むことを推奨する:


“放射線テレックス”情報サ-ビス記録: www.strahlentelex.de
チェルノブイリ分析の収集、今中哲二著(京都大学、KURRI-RI-21, KURRI-KR-79,英文)http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/reports/1998/kr-21/contents.html http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/reports/kr79/KURRI-KR-79.htm
露/英“International Journal of Radiation Medicine”発行キエフ (アングリ-ナ ニャ-グ編集, キエフ, ISSN 1562-1154) (全文は Society for Radiation Protectionの記録から入手可能)
ウエブサイト“チェルノブイリの医師” www.physiciansofchernobyl.org.ua/eng/about.html
“オット-ハ-グ放射線研究所” のレポ-ト5号 (1992)と24号 (2003)、ボン
エドムント レングフェルダ-: “放射線効果とリスク”, ecomed-V. 1990
ロ-ランド・ショルツ: “放射線による生命の危険”, IPPNW叢書4巻, 第3版, 1997
“ドイツ放射線防護協会” : www.gfstrahlenschutz.de
IPPNW核戦争防止国際医師会議ドイツ支部: www.ippnw.de and www.tschernobyl-folgen.de
チェルノブイリと福島の汚染地図:      http://genpatsu.sblo.jp/pages/user/iphone/article?article_id=48905428
エフゲーニャ・ステパノワ博士(ウクライナ放射線医学研究センター)のインタビュー:
http://savechild.net/archives/13822.html
Lies of the Fukushima(福島の嘘)ZDF zoom: http://blog.livedoor.jp/chiblits/
【YouTube】Lie of the Fukushima (ZDF zoom / 日本語字幕) part-1: http://www.youtube.com/watch?v=szGQFhG1zT4

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第2章 汚染除去作業員

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第2章 汚染除去作業員

 自発的であれ、強制であれ、事情を知っている場合であろうとなかろうと、汚染除去作業員は、チェルノブイリ大惨事の被害拡大を抑えるために、自らの生命と健康を犠牲にした。彼らが行った任務のおかげで、他の人々がより最悪な危害をこうむるのを防ぐことができた。作業員は私たちから尊敬されている。しかしながら、不幸なことに彼らは、火災や有毒物質、放射線被ばくの犠牲となったばかりでない。無能な官僚たちによって彼らの病状とその経過が明らかにされず、適切な治療が保証されず、社会的にも金銭的にも支援されず、別の面でも犠牲となったのである。

 これらの事情のもと、個々の人々の被ばく線量値は正確にわかっていない。この状況をいっそう困難にしているのは、これら汚染除去作業員が旧ソ連各地から動員され、任務が終了したのち故郷に帰ったということである。今日では作業員は、旧ソ連全体に分散し、住所氏名が把握できるのは彼らの半数にすぎない。そして、彼らのごく一部だけが定期的な検査の対象となっているのである。

 問診票には紛らわしい質問が並べられ、意図的に誤解が生み出される仕組みになっていた。たとえば、「放射線被ばくによってある病気が引き起こされたか」という質問は「チェルノブイリ事故の結果として病気が出現したか」という質問に置き換えられた。それに加えて、がん以外の病気と放射線被ばくとの関連については、無視された-広島・長崎からのデ-タ解析による長年の知見があるにもかかわらず、そして、テキストや参考図書、国際機関からのレポ-トには言及されていないことをよいことに・・
この議論のインチキ論法はしばしば用いられている。

つまり、がんではない-
  ゆえに、放射線によって引き起こされたものではない
   したがって、チェルノブイリ事故の結果ではない- 以上、終わり


 現在、とても多くの汚染除去作業員たちが病気になり、さまざまな病(やまい)を同時に背負っている3)。1992年9月にベルリンで放射線被害者に関する第2回世界会議が行われた。ミンスクのゲオルギ-・レプチン教授(=チェルノブイリ汚染除去作業員ユニオンの副会長)は「すでに70,000人の作業員が病気になり、13,000人が死亡した」と述べている4)。

 がん研究者のイワノフの調査で、ロシアでは汚染除去作業員の白血病リスクは、150~300mSv被ばくした場合に2倍となることがわかった。この増加傾向は1986年~1996年の期間にピ-クがあり、その後1996~2003年にはおさまってきた。また脳血管障害の発病率も増加しており、特に6ヵ月以内に150mSvも浴びた作業員に顕著であった5)。

 同じイワノフは、ロシアの汚染除去作業員たちの死亡リスクと放射線量との関係性を調査し、次の結論をえた6)。 47,820人もの人々をコホ-ト研究(下記ご参照)し、中央値128mGy(=128ミリシ-ベルト)を被ばくした群では死亡率が有意に増加していた。固形悪性新生物(=がん)による死亡の過剰相対リスクは0.74/Gy(訳注:ある集団の通常のがん死が100名だとすると、1グレイ被ばくすることによって、174名に増えるという意味である。なお1Gy=1,000mGy)であり、心臓血管性疾患による死亡は1.01/Gy、全ての死亡は0.42/Gyであった。

(参照:コホ-ト研究とは疫学調査の手法の1つである。たとえば放射能を被ばくした集団と被ばくしていない集団を一定期間追跡し、病気の発生率を比較することで、原因と疾病発生の関連を調べる観察的研究である。集団を前向きに追跡しているので、被ばくから病気の発生までの過程を時間を追って観察することができる)

 2002年にウクライナ健康省は、病気として登録された汚染除去作業員の割合が1987年から2002年までの間に21.8%から92.7%に大幅に増加したと発表した。大惨事の19周年追悼式でパリのウクライナ大使館は作業員の94%が病気であると発表した7)。 2005年秋、キエフの医師たちは約2,000人の作業員が病気であり、今日ではその数は106,000人にのぼると述べている。しかし、ロシアやベラル-シにはそれに相当するデ-タはない。

 旧ソ連に汚染除去作業員の登録記録(知られている限りであるが)がいくつか存在する。10,000人の作業員がウズベキスタンで登録されている。大惨事以降5年以内に8.3%の者が何かしらの病気を持つこととなった。事故以後10年で作業員の73.8%が病気になり、500人以上が死亡した。作業員の68.8%が4~5種類の病気にかかっている。960名の作業員と200名の一般住民の罹病率とを比較した場合、前者では次の病気の罹病率が著しくに高いことがわかった:慢性脳循環不全症、自律神経失調症(起立性低血圧症)、慢性胃炎、十二指腸粘膜の慢性的炎症、慢性肝炎、胃十二指腸潰瘍、慢性胆のう炎、高血圧症、虚血性心疾患、慢性気管支炎、慢性腎盂腎炎、前立腺の慢性炎症、脊椎の退行性病変8)。

 2005年ホリシュナ氏はウクライナの男性作業員の死亡率を調査し発表した。1989年から2005年の7年間に、1000人当たりの死亡率が3.0人から16.6人へと5倍も増加していた。一方、同年齢の一般労働者では4.1人から6.0人になっていた9)。

 2005年9月初めにウィ-ンで開催されたチェルノブイリ・フォ-ラム会議(国連の組織)でウクライナ緊急事態省補佐官テチュアナ・アモソバは次のような発言をした。ウクライナでは、父親である汚染除去作業員がその職務遂行後に死亡したために、17,000以上の家族が国から給付金を受けていると10)。

エドムンド・レングフェルダ-は、いろんな情報源からデ-タを集め、汚染除去作業員の死亡数は5万から10万人と推定した11)。

 さまざまな調査にもとづき、A.ヤブロコフ12)は、2005年までに112,000~125,000人の汚染除去作業員が死亡したと推定した。ロシアとウクライナの死亡率に関する研究では、作業員のおもな死亡原因は、悪性疾患のほかに、がん以外の病気と重篤な多発性疾患(訳注:多くの病気を併発している状態)などが重要である。複数の病気に同時罹患するのは被ばくによる早期老化の一つの型であろうと思われる。電離放射線(下記ご参照)被ばくによってどのようにして老化が早まるのであろうか?

(電離放射線:原子は原子核とその周りをまわっている電子からできている。電離とは放射線によってこの電子が原子から弾き飛ばされることを言う。ここでは放射線と同じ意味で使われている)

2.1 放射線被ばくによる早期老化作用

 ロシアとベラル-シ、ウクライナでの多くの研究で電離放射線は老化作用を促進することがわかった。ベベシコらウクライナの科学者は放射線による老化促進は正常な老化作用のモデルとなるかもしれないと述べている13)。

放射線は細胞構造にも細胞機能にも作用し、分子と遺伝子レベルで障害を与える。放射線の細胞障害と細胞変性は正常老化作用の際に働く生物学的メカニズムと同じかあるいは似かよっている;フリ-ラジカルの悪影響、DNAの不正修復、免疫システムの機能低下、脂質代謝の異常、神経系の組織変性など(ベベシコら、2006年)。

放射線を浴びた原爆生存者を対象に前方視的疫学調査を行ったところ、平均余命ががん以外の病気のためにかなり短縮していた14)。

ロシアとベラル-シ、ウクライナの汚染除去作業員での調査では、成人病の発病時期が正常老化作用で現れるよりも10~15年早く見られた15)。 まとめると次のようになる。

血管の老化が早まった-特に脳の血管-そして冠動脈16)。
老人性白内障、眼底血管の動脈硬化、そして早期視野狭窄17)。
中枢神経系障害のため高次知的認知能力の喪失18)。
抗酸化システム-外的損害因子による細胞染色体の損傷の修復を担う-の安定性の喪失19)。

 P.フェディルコの報告によれば、放射線白内障(ある閾値以下では起きない)や放射線網膜症のような特有な目の病気がある。放射線を浴びなくても加齢によって同じことが起きることを考えれば、放射線は目の老化を促進するといえるであろう。

 エレナ・ブルラコバらは、低線量の0.0416、0.00416、0.000416mGy/分でト-タル0.0006~1.2 Gyのγ線(セシウム137)を照射する動物実験を行った。放射線を浴びた動物から細胞を採取し、その遺伝子と細胞膜について種々の生物物理学・生化学的パラメ-タを調べた。全体として、異常な線量依存がみられた。しかし、線量/効果の関係は一定ではなく非直線的で異なった特徴を持っていた。低線量被ばくは一般に傷害因子の効果を増強させた。照射の影響は対象動物の出力パラメ-タ-に依存していた。低線量をある間隔で小分けに照射した場合は、一回にまとめて照射するよりも障害の程度が大きかった。

 同じブルラコバらの研究によれば、放射線照射は動物でも人でも、細胞膜の構造と特性、抗酸化物質活性とその濃度、調節酵素の活性などに悪影響を与えた。これはいわゆるペトカウ効果20) (訳注:1972年ペトカウが発見した現象で、少量で慢性的な放射線照射は高線量の短時間照射よりも細胞膜に与える影響はより大きいというものである。ラルフ・グロイブ、アーネスト・スターングラス共著「人間と環境への低レベル放射能の脅威」あけび書房2011年より)かそれ以上のものである。 トコフェノ-ルやビタミンA 、セルロプラスミンのような抗酸化物質が減少し、フリ-ラジカルとその副産物が増え、細胞膜が硬くなり、脂質の流動性が悪くなり、タンパク質成分が変性した。結局、老化現象で起きると同じことが-単に程度が違うだけで-放射線で起きていた。

 ブルラコバ曰く「汚染除去作業員は一般の人より10年から15年早く年をとる。同じことは動物でも見られる。動物の場合でも“放射線不安症“や“放射能恐怖症”という病名がつくのだろうか(訳注:WHOに対する皮肉)」。彼女は、可能な治療として抗酸化物質を勧めている。しかし、適量が基本となる。なぜなら、量が多すぎると副作用が出るからである。動物実験では鶏白血病の初期段階-発病80日から250日まで-の進行を遅らせる効果があった21)。

2.2がんと白血病

放射能マーク 1986年と1987年にチェルノブイリで働いた汚染除去作業員(ロシア人)のあいだで白血病が統計学的に有意に増加した23)。 ロシアからの情報によれば、多くの作業員が現在病気にかかっており、特に白血病、肺がん、その他の腫瘍性疾患に苦しんでいる24)。 ジュリア・マロ-バによると作業員たちはおもに肺と気道のがんを病んでいる25)。

 オケアノフ26)らによれば、ベラル-シの汚染除去作業員たちのあいだで対照集団(ビテブスク地域の住民)に比較して、肺や結腸、膀胱、腎、甲状腺のがんが有意に増加していた(p<0.05) 27)。

(訳注:p値とは例えば、100回、同じ検定を行った場合に、そのうち**回は誤った結論を得る確率、ということである。p<0.05という値は“100回中誤った結論を得る確率は5回未満”という意味である。したがって数字が小さいほど統計的に正しいということになる。通常は0.05以下を有意差ありという)

 ところが、作業員たちの発病の相対的リスクは対照集団と比較しても-甲状腺がんを除いて-近年(1997年~2000年)まで有意な増加はなかった。すなわち発病までに12‐15年の潜伏期があったということになる。作業員たちのあいだでは、がん(全てのタイプ)の1年の平均的増加率は5.5%であった。しかし、北ベラル-シの比較的汚染の少ないビテブスク地域ではわずか1.5%であった(p<0.05)。結腸がんの比較では、作業員とビテブスク地域の成人では年平均がそれぞれ9.4%と3.2%の増加であった(p<0.05)。腎がんではそれぞれ8.0%と6.5%の増加(p<0.05)、膀胱がんではそれぞれ6.5%と3.8%の増加であった(p<0.05)。

とくに長期間しかも高濃度放射線を被ばくした作業員たちでは、がんに侵される率はさらに高かった。また、作業員たちのあいだでも、高濃度汚染のホメリ(ゴメリ)地域で生活していた人々では発がん率は特に高かった。

2.3 神経系への損傷

 1990年秋の初めベラル-シの精神科医コンドラシェンコ(ミンスク)は次のように警告した「大惨事の影響で、放射線に被ばくした人々の脳に病理学的変化がみられ、注意が必要である!」28)。また、セミパラチンスク(カザフスタン)の核兵器実験地域周辺からの重要な記録(10年間)がある。それによれば、その地域で生活している村民たちは神経障害や知覚障害、頭痛に苦しんでいた。このような情報があるにもかかわらず西側諸国では真剣に受け取らず、むしろ逆に、チェルノブイリ事故後に起こった多くの健康問題は放射線のせいでなく、ヒステリ-反応と決めつけ、“放射線恐怖症” 29)という病気 をでっち上げた30)。

キエフのパラギュイン生化学研究所のナデイダ・グラヤはチェルノブイリ地域に住む(棲む)人と動物の神経細胞を研究し、神経系にみられる損傷の原因は放射線への恐怖のためではなく、放射線のため組織が実際に深刻な障害を受けたためであると報告している31)。

 亡くなった汚染除去作業員たちを検死したところ、その48%は死因が血栓症あるいは循環障害によるものであった。がんは28%の割合で、死因の第2位であった。地域の除染を命じられた旧ソ連軍兵士たちのうち20,000人は治療あるいは研究のプログラムに参加している。彼らの多くは精神的にも肉体的にも重篤な状態にあり、この辛い経験に対処することが困難であると思っている32)。

 ベルン大学病院耳鼻咽喉科のアンドレアス・アルノルドによれば、多くの汚染除去作業員たちが苦しんでいる浮動性めまいの症状は中枢神経系の損傷によるものである33)。 また、作業員として働いたあと、多くの者が運転中に睡魔に襲われるため、その後の仕事をあきらめねばならなかった34)。

2.4 精神疾患

 1993年1月13日発刊のモスクワタイムズの報道によれば、サンクトペテルブルクにあるクリニックで汚染除去作業員1600人を検診したところ、その80%が深刻な精神的問題に苦しんでいるという結果であった35)。 また、医療的援助を求めている作業員たちの40%は記憶喪失などの精神神経疾患に苦しんでいることがわかった。

 数千人の汚染除去作業員のうち数十人は失語症や抑うつ状態、記憶障害、集中力の喪失に苦しんでいる36)。 放射線障害モスクワセンタ-に勤務する精神科医ジュリア・マロ-ヴァは作業員の健康問題にとりわけ関心をもち、次のように説明している-私たちの理論は、何らかの理由で、脳への血流が以前に、またおそらくは今でも減少しつづけているというものである。このようなタイプの疾患は作業員では他の被害者よりも多くみられる。

 汚染除去作業員にみられる他の症状としてとりわけ多いのが慢性疲労症候群である。 ロガノフスキ-(2000,2003)によれば、0.3シ-ベルト以下の被ばくを受けた人の26%が慢性疲労症候群の診断基準に該当する。作業員では、慢性疲労症候群の頻度は、1990年から1995年では65.5%であったが、1995年から2001年では10.5%に減少していた。一方、いわゆるメタボリック症候群Xは同様の比較で15%から48.2%に増加していた。慢性疲労症候群やメタボリック症候群X は他の精神神経疾患や身体的疾患への前症状とみなされている。慢性疲労症候群はまた、環境的な影響を受けやすいと考えられており、また神経変性や認識障害、精神神経障害の前駆症状ともみなされている。大脳の左半球のほうが右半球よりも傷つきやすいようだ。

 P.フロ-ル・ヘンリ-の報告によれば、さまざまなうつ状態、あるいは統合失調症や慢性疲労症候群のような症状は汚染除去作業員に非常に多く見られ、脳の器質的変化(右ききでは主に左半球の)を伴っており、脳波検査によって客観的に診断できる。彼らの考えでは、これは、さまざまな神経的、精神的疾患が0.15~0.5シ-ベルトの放射線ひばくで引き起こされるということを示しているようだ。

 放射線被ばくの症状は早期老化という形でも現れてくる。そしてこれらの神経的老化症状は被ばくの時期が若ければ若いほど、より早く、より深刻に現れる。

 彼はまた、脳波検査で脳の左半球に異常を示す疾患は、急性の放射線障害の作業員にも見られたと報告している。また、驚いたことに、これらの精神的疾患や脳波変化は、アフガニスタン侵攻に参加したロシアの退役軍人には見られなかった。その理由は、これらの兵士たちが大きな外傷的ストレスにさらされたが、放射線被ばくを受けなかったためであろう。ただし、チェリノブイリの作業員と違い、彼らは故郷で英雄とみなされることはなかった。

一方、チェリノブイリの作業員と第1次湾岸戦争やボスニア戦争の退役軍人に、磁気共鳴画像法や脳波検査、ポジトロン断層撮影法などの検査を行ったところ、脳の変化は両者で極めて酷似していることがわかった。P.フロ-ル・ヘンリ-の考えによれば、これは湾岸戦争やボスニア戦争での劣化ウランを含むロケット弾の使用に関係があるという。ロケットは空中にウラニウム238酸化物のほこりを放出し、人々に吸入された。そして、ウラン238に暴露された人たちが日本(1945年)の原爆被ばく者と同じような精神神経学的症候群に進行していった。

 ロシア科学アカデミ-の神経生理学研究所のL.A.ザボロンコバと公衆衛生省放射線研究所のN.B.ホロドヴァは汚染除去作業員たちに神経学的調査をしたところ(37)、高次認知機能や精神機能が損なわれていた。それらは、思考の遅延、疲労の増大、視覚性・言語性記憶障害、高次運動機能障害などである。これらの症状は早期老化によるものと類似していた。

 “フランス-ドイツ チェルノブイリ・イニシアティブ”での研究(訳注:独・仏で資金を出した研究と思われる)では、標準化された系統的精神科面接法(ロマネンコら)を用い調査したところ、精神的障害は汚染除去作業員の36%にまで増加していた。一方、ウクライナ全人口では20.5%であった。うつ病ではこの頻度増加がさらに著しく、汚染除去作業員では24.5%に対しウクライナ全人口で9.1%だった。(デミッテナイア-ら 2004 )

 1986年から1987年までチェリノブイリ周辺の規制区域で仕事をしていた汚染除去作業員-特に、その後も同地に住み続け、合計3年から5年間過ごした作業員たち-では精神神経学的障害が増えつづけている。そして、250mSv以上の被ばくを受けた作業員では80.5%に、250mSv以下では21.4%に障害がみられた。(p<0.001)(ニャ-グら.2004 )ロガノフスキ-は1990年以降統合失調症の頻度が増加していると報じている;一般の人では人口10,000人当たり1.1人なのに比べ、作業員では5.4人であった。別の報告では、チェリノブイリ地域で生活し、労働していた人々のあいだでは統合失調症の発生頻度は他のウクライナ人に比較して1986年から1997年の期間では2.4倍に、1990年から1997年の期間では3.4倍になっていた。(ロガノフスキ-&ロガノフスカヤ 2000 )

2.5 循環器疾患

WHOによる研究ではロシアの汚染除去作業員のあいだで循環器疾患が有意に増加していたことがわかった38)。

 ロシアの情報によると、現在もなお多数の作業員が循環器疾患をわずらい、苦しんでいる39)。 イワノフ(1999)の調査によればロシアの作業員では心血管疾患のリスクが40%増えていた40)。

 D.ラジュ-クはベラル-シ出身の汚染除去作業員の心血管系疾患を調べた41)。1992~1997年の観察期間で、作業員の間では通常と比較して致命的な心疾患が著明に増加していることがわかった(22.1% 対 2.5%)。これが放射能による血管へのダメ-ジか否かについてはいまだ議論中である。

2.6 その他の病気

 WHOが行った研究では、ロシア人汚染除去作業員では胃腸炎、感染症、寄生虫関連疾患と同様に、血液疾患、内分泌疾患が有意に増加していた42)。

ロシアの情報によると、現在、多くの汚染除去作業員が胃腸炎に苦しんでいる43)。

 ウクライナ医学アカデミ-の放射線医学研究所に所属するパベル・フェディルコは、彼が調べた5,200人の汚染除去作業員の95%が白内障や黄斑変性、慢性の結膜炎といった眼の病気に悩まされていると報告した44)。

 エレナ・ブルラコバは長期間にわたり、低線量被ばくの影響を細胞レベルで調べてきた45-47)。汚染除去作業員やさまざまな人を対象とした研究では、特に子どもや30歳未満の若年者において、低線量被ばくは抗酸化系保護機能を破壊することが明らかになった。彼女は「早く年をとる」と述べている(訳注:前出、2.1ご参照)48)。

 下記の表2.はヤリリン の調査結果である。12の疾病グル-プの有病率が汚染除去作業員の中で、どのように変化してきたかが示されている。たった7年間でこれらの数値がいかに増えたか注目に値するだろう49)。

表2.汚染除去作業員の疾患別患者数(10,000人あたり)50)

疾病/臓器グル-プ 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993
感染、寄生虫 36 96 197 276 325 360 388 414
腫瘍 20 76 180 297 393 499 564 621
悪性新生物 13 24 40 62 85 119 159 184
内分泌機能 96 335 764 1,340 2,020 2,850 3,740 4,300
血液、造血器 15 44 96 140 191 220 226 218
精神症状 621 9,487 1,580 2,550 3,380 3,930 4,540 4,930
神経、感覚器 232 790 1,810 2,880 4,100 5,850 8,110 9,890
循環器 183 537 1,150 1,910 2,450 3,090 3,770 4,250
呼吸器 645 1,770 3,730 5,630 5,630 6,950 7,010 7,110
消化器 82 487 1,270 2,350 3,210 4,200 5,290 6,100
泌尿器 34 112 253 253 646 903 1,180 1,410
皮膚、皮下組織 46 160 365 556 686 747 756 726

2.7 汚染除去作業員の子どもたち

 汚染除去作業員の子どもの遺伝子を調べたところ、非常に多くの変異が発見された。ハイファ大学の研究によれば次のようなことが明らかになった。チェルノブイリ清掃作業をする前に授かった子どもたちとその後に生まれた子どもたちを比較したところ、後者では遺伝子変異をもつ確率が7倍になっていた。これらの変異は重症疾患に直接結びつくものではないが、それらは未来の世代へと受け継がれていくことになる。変異は事故後すぐ授かった子どもたちで特に多く、事故から時間が経過するにしたがって減少した。子どもたちの父親は50~200 mSVの放射能を浴びていた。これは原子力発電所の職員の被ばく量のおおよそ10年分に相当する51)。

シェバン教授と同僚のプリレブスラヤは、汚染除去作業員の子どもたちに甲状腺がんが発生するのか調べるため、700人を対象としたコホ-ト研究を行った。その結果、作業員の子どもたちは被ばくしていない両親をもつ子どもたちよりも甲状腺がんの発生率が有意に高かった52)。しかし、なぜこうなるのか理由はよくわかっていない。

 ツィブは、汚染除去作業員の子どもたちとオブニスクス(低汚染地域)の子どもたち(ロシア)を比較したところ、前者ではすべての種類の病気でその頻度が有意に上昇していた(1994年~2002年)。特にがんや白血病、先天奇形、内分泌代謝疾患は精神障害や行動異常と同程度に増加していた。何年かたつと泌尿生殖器、神経、感覚器の病気も増えた。これらの病気は特に1999年に多かった53)。

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