第1章 はじめに

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核分裂と核融合について
      国民を混乱したままにしろ”

アイゼンハワ-米大統領

 チェルノブイリ事故は世界を変えた。一夜にして多くの人々が被害者となった。広大な範囲が住めない土地となった。放射能を帯びた雲が世界中に広がり、多くの人の心に核エネルギ-の使用は危険であるという考えが芽生えた。西欧に住む私たちは、食べ物や子どもたちが遊んだ砂についてとても心配したことが忘れられない。けれども、ウクライナやベラル-シ、ロシアが直面した大きな苦難には関心が薄く、1989年の“チェルノブイリの子どもたち”以降になってようやく理解が広がりはじめた(訳注:“チェルノブイリの子どもたち”はセバスチャン・プフルークバイル博士がベルリンにて創設した市民団体の名称)。事故被害者を助けようと結束し、自発的な運動が始まり、16年以上も継続したことは歴史的にも意義ある。

 チェルノブイリ事故による放射線と多くの疾病・死亡との因果関係を調査した研究は多い。本報告では、それらの研究が科学的に適切なものかどうか評価した。方法論的に正確かどうか、包括的な解析が行われているかどうかに重きを置いた。この統計処理の分野ではいろんな判断をするうえで、多くのかつ固有の不確実性があるということを忘れないようにした(訳注:統計処理の方法とその解釈には十分な注意が必要ということである)。このことを十分考慮して発行文献を選定した。

 ただし、学問の世界では、要査読雑誌(訳注:論文を掲載する際に厳密な審査を要する雑誌のこと。世界の一流誌はすべてこの審査がある。この審査は大切だが欠点もある。審査員のおめがねにかなう必要があるということである)に掲載されていない論文は信頼性がないとして、しばしば除外される。しかし、それはむしろ不当であると信じている-ガリレオ・ガリレイやアルバ-ト・アインシュタインさえも要査読雑誌への投稿を受理してもらう機会はなかったのだから。

 チェルノブイリ原子力発電所を失って、重要かつ大きな経済損失を被った。チェルノブイリからの放射性降下物は見返り(訳注:電力の見返り)に耕作できない広大な土地をもたらした。大小の店や会社が失われ、村や町が捨てられ、あるものはブルド-ザ-で平坦にされた。何百万もの人々が放射線の影響を受け、彼らが所有していたすべてのもの、アパ-ト、家、家庭、そして社会の安全性を失った。多くの人が職を失い、新しい職を見つけることができなかった。チェルノブイリからの放射能に耐えられないという思いと、追放されることが我慢できないという2つの考えのはざまで悩み、そして家族は離ればなれになった。

 チェルノブイリの犠牲者数についての論争は皮肉であり馬鹿げている。よく知られた事実であるが、「死者数31人」は長いあいだ正しいとされ、この数字はしばしば引用されてきた。2005年9月のウィ-ンで見積もられた“50人未満”も真実ではなかろう。それは受け入れられない詭弁であり、チェルノブイリ死として急性の放射線障害やがんや白血病で亡くなった人の数だけ集めたものである。チェルノブイリ事故のあと、劇的ではないが明らかな有病率が増加している。しかし、-典型的な(訳注:皮肉な意味が込められている)-専門家の判断は、被害者の治療をしたこともないのに、原発から距離が離れているという理由だけで、この患者増加はチェルノブイリに起因するものではないというものであった。

 高濃度の放射線被ばくを受け、何年も病気がちで過ごし、妻と別れ、娘が父の過去によってボ-イフレンドを見つけることができなくなり、種々の病気をわずらい、医師からも治療の匙を投げられ、そして自殺を企てた、そのような汚染除去作業員をチェルノブイリ死として数えられるかどうかについて、私たちは論争を拒否する。

 このように、チェルノブイリ事故による死者について信頼できるデ-タを探すことは不可能となっている-とにかく、信頼できないデ-タが多い、そしてあまりに多過ぎるのだ。チェルノブイリの影響を包括的に示す叙述はいまだ無い。本報告の目的は、あなたがすでに知っていることをすべて思い出してもらうこと。そして、巨大な組織が作成した単純化・集約化した考えを、注意深くかつ批判的に吟味し、さらにどこに大きな問題が隠されているのか、空白部分は何なのかについても注意を払ってもらうことにある。   

チェルノブイリの影響を分析したくても、次のような各種隠ぺい工作によって妨害されている。

 事故後の最初の1年間に旧ソ連の保健省とKGBは多くの禁令を発行した。その結果、状況判断に必要な生命情報が収集されず、秘密にされ、そしてねつ造された。そして、重要かつ貴重な情報が失われ、今となっては、いかに込み入った方法を用いて理論的計算を行なってももう取り戻すことはできない。な

 事故についての公式の報告書は、主にチェルノブイリから遠く離れたモスクワの‘red table’(訳注:‘指導者’と訳すべきか。旧ソ連最高会議幹部の会議室に赤いテ-ブルがあったのかも・・)レベルの組織で作成された。これらの報告書は決定事項とされ、偽造されたまま現在に至っている。

 東西両方の放射線医学/放射線防御および原子炉安全/核技術分野の指導的科学者たちは事態の鎮静に躍起であった。彼らは、のちに厳然とした事実がわかっても、以前に下した判断を全く、あるいはほんの部分的にしか修正するつもりはなかった。

 責任当局は、汚染除去作業員や住民の放射線被ばく調査を強制的にさせられた。彼らには適切な設備もなく専門家も時間も足りなかった。このようにして作られた報告書は故意に偽造することでさらに不正確なものとなった。健康への影響は予測されていていたものとは異なった。

 かなりの人々が、汚染が濃厚な地域から軽微な地域へ移住したが、今日ではその詳細は分からない。汚染された地域とそうでないところを比較することは難しくなった。 

 “補償裁判”への提訴内容について多くの報告書がある;汚染された食べ物がクリ-ンな地域にあった、クリ-ンな食べ物が汚染地域に輸送された、あるいは汚染されたものとそうでないものが混ぜられた-汚染された地域とクリ-ンな地域の区別はさらに覆い隠された、そしてもはや再び辿(たど)ることはできない。しかし、きっと住民の健康に少なからず影響を与えたであろう。 

 ロシア、ベラル-シ、ウクライナのどの政府もチェルノブイリの影響について広範囲に調査することには興味がない。彼らは事件を終了させ、失われた地域で再び徐々に耕作を開始し、再定住し、できるだけ被害者に補償しないようにしている。彼らにはそこで犯されたミスについて議論することには興味はない。IAEA(国際原子力委員会)とUNSCEAR(放射能の影響に関する国連科学委員会)の中にもこの立場を支持する人々がいる。この地域で独自に科学的研究を行なおうとしても資金は提供されず、むしろ逆に攻撃され妨害されるだけである。

放射線障害は推計学的に実証することは難しい。大きな疫学調査は費用がかかるうえに、必要なデ-タを照会するには国の協力があって初めてできるのである。

 
特に汚染された3つの国では人口の年齢構成が劇的に変化した;出生率が下がり、死亡率が増加し、男性の寿命がおよそ10年短くなった。この原因は複雑で、がんや疾患の統計を調べただけで簡単にわかるようなものではない。


 旧ソビエト連邦はチェルノブイリ事故とほぼ同時期に崩壊した。その結果、健康に関する医療システム全体が劣化した。医療に携わる人々、病院設備、そして社会・経済構造全体が崩壊した。裕福な人はごくわずかで、絶望的なほどに貧しい人々が増加した。彼らは自分の食料を自分で生産しなければならなかった-その土地が汚染されているか否かにかかわらず。これらすべてが健康状態に悪影響を及ぼした。人々の健康被害は、これらのシステムの変化によるのかチェルノブイリ事故のせいなのかをはっきり区別することは困難である。たとえ不可能でないとしても・・。


 医療設備が劣悪で、しかもうまく機能しないため、多くの医師たちが疲労し挫折した。このような状況下では、医師は働く元気も科学的疑問への興味も失った。西欧の委員会の専門家だけがチェルノブイリ地域を研究の対象とすることができると彼らは感じた。そして、医師たちは患者の治療に専念することしかできなかった。そのため医師たちは西側の科学者に情報を提供することをためらった。


 ヨ-ロッパの国々の責任当局は、チェルノブイリ事故の影響調査をいやいやながら実行したか、あるいは全くしなかった-彼らは、チェルノブイリ事故の放射性降下物は比較的少量だったことから考えて、そこから得るものは何もないだろうと推測した。たとえ何かが得られたとしても、科学の根本をくつがえすだろうか。科学が劇的に変化するとき、仲間内から激しい抵抗に会うことが多いことを歴史は教えているのだから。


チェルノブイリ事故の真実に近づくために研究を行なっても言語の壁が大きな障害となった。ロシア、ウクライナ、ベラル-シの科学者たちは数多くの重要な分析をしたが、それらはロシア語で発刊され、ロシアの学会で討論された。それらは西側ではほぼ完全に無視された。なぜなら西欧ではロシア語は簡単に理解される言語ではなく、しかも、よい翻訳も行われなかったためである。


この報告書では多くの科学的研究を引用した。これらの調査によれば、チェルノブイリの壊れた原子炉から放出された放射性ガスと粒子(アイソト-プ*)が多くの深刻な疾患を引き起こし、そして現在も引き起こしていることが明らかになった。そして、多くの人々が病気になり亡くなった。ここで正しいと評価された論文は科学的標準(訳注:調査方法と統計処理のことと思われる)に従っており、ほとんどが科学雑誌に発表されたものである。


(訳注*:ここでは放射性物質と同じ意味で使われている)



この報告書に書かれていることは、残念ながら不完全で確定的ではない。私たちにできるのはいろんな論文の一端に触れることだけである-そうでなければ文章が長すぎて読めないものになってしまうであろう。

私たちは次のことができるよう希望する;過去の知識を再認識し、人々に新しい知識を伝え、独自の仕事を遂行するよう勧め、事故被害者の援助方法について思案する。




補足
チェルノブイリ事故の基本デ-タ1)

事故日:1986年4月26日

直接影響を受けた数
 ベラル-シ  2,500,000人
 ウクライナ  3,500,000人
 ロシア     3,000,000人
疎開した人: 135,000人 
家を失い移住した人:400,000人 


 >185,000 Bq/㎡(5 Ci/㎞2)地域に住む人口  :3,000,000人 
 > 555,000 Bq/㎡(15 Ci/㎞2) 地域に住む人口 : 270,000人 


汚染した地域:
 ベラル-シ    30% 62,400 ㎞2
 ウクライナ   7% 42,000 ㎞2 および森林の40%
 ロシア1.6%(ヨ-ロッパ部分の) 57,650 ㎞2
185-555,000 Bq/㎡(5-15 Ci/㎞2) で汚染された地域:21,000㎞2  
555,000 Bq/㎡(>15 Ci/㎞2)以上で汚染された地域:10,000㎞2

表1.1995年におけるウクライナ、ベラル-シ、ロシアの放射能汚染地域の人口分布2)

Cs137(kBq/㎡) ベラル-シ ロシア ウクライナ 合計
37 – 185 1,543,000人 1,654,000人 1,189,000人 4,386,000人
185 – 555 239,000人 234,000人 107,000人 580,000人
555 – 1,480 98,000人 95,000人 300人 193,300人
総計 1,880,000人 1,983,000人 1,296,300人 5,159,300人
ヨ-ロッパで37 – 185 kBq/㎡Cs137で汚染された地域

スウェ-デン 1 style=”width: 50%;height:30px;padding: 1px;margin: 0;”2,000 ㎞2
フィンランド 11,500 ㎞2
オ-ストリア 8,600 ㎞2
ノルウェ- 5,200 ㎞2
ブルガリア 4,800 ㎞2
スイス 1,300 ㎞2
ギリシャ 1,200㎞2
スロベニア 300 ㎞2
イタリア 300 ㎞2
モルジブ 60 ㎞2

旧ソ連は長期対策として2つのガイドラインを作成した:

・ 1,480 kBq/㎡以上の汚染地域の居住者は移住
・ 185 kBq/㎡以上の汚染地域は、汚染度を下げるための基準が設けられた-たとえば土壌の除染やその土地で産出された食物を輸入品と交換するなど


汚染除去作業員の数:
800,000 ( 600,000 – 1,000,000) 人
(ドイツ陸軍との比較: 約275,000人)




<グレイとシーベルトの関係>

グレイ(Gy):吸収線量(人体に吸収された放射線エネルギー)

シーベルト(Sv):実効線量(放射線が人体に与える影響の大きさ。放射線の
種類や臓器によって影響度が異なる)

β線やγ線が全身に均等に吸収されたと仮定した場合:1グレイ=1シーベルト
α線が全身に均等に吸収されたと仮定した場合:1グレイ=20シーベルト

(1シーベルト=1,000ミリシーベルト、1ミリシーベルト=1,000マイクロシーベルト)




以下の資料を読むことを推奨する:


“放射線テレックス”情報サ-ビス記録: www.strahlentelex.de
チェルノブイリ分析の収集、今中哲二著(京都大学、KURRI-RI-21, KURRI-KR-79,英文)http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/reports/1998/kr-21/contents.html http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/reports/kr79/KURRI-KR-79.htm
露/英“International Journal of Radiation Medicine”発行キエフ (アングリ-ナ ニャ-グ編集, キエフ, ISSN 1562-1154) (全文は Society for Radiation Protectionの記録から入手可能)
ウエブサイト“チェルノブイリの医師” www.physiciansofchernobyl.org.ua/eng/about.html
“オット-ハ-グ放射線研究所” のレポ-ト5号 (1992)と24号 (2003)、ボン
エドムント レングフェルダ-: “放射線効果とリスク”, ecomed-V. 1990
ロ-ランド・ショルツ: “放射線による生命の危険”, IPPNW叢書4巻, 第3版, 1997
“ドイツ放射線防護協会” : www.gfstrahlenschutz.de
IPPNW核戦争防止国際医師会議ドイツ支部: www.ippnw.de and www.tschernobyl-folgen.de
チェルノブイリと福島の汚染地図:      http://genpatsu.sblo.jp/pages/user/iphone/article?article_id=48905428
エフゲーニャ・ステパノワ博士(ウクライナ放射線医学研究センター)のインタビュー:
http://savechild.net/archives/13822.html
Lies of the Fukushima(福島の嘘)ZDF zoom: http://blog.livedoor.jp/chiblits/
【YouTube】Lie of the Fukushima (ZDF zoom / 日本語字幕) part-1: http://www.youtube.com/watch?v=szGQFhG1zT4

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